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『犯罪と刑罰』1−6

 ベッカリーアの『犯罪と刑罰』を読んでいく。

 まず、刑罰権の基礎にあるのは社会契約である。自然状態の闘争状態から抜け出すため、人々は自由の一部を差し出して、他の自由を確保することにした。だが、この社会契約を実効あらしめるためには違反者を処罰しなければならない。ここに刑罰権が生じるが、人間はその心情ゆえに自己の利益を求めるから、刑罰を許容するために差し出された自由は最小限のものである。

 以上より、三つの命題が帰結する。(1)罪刑法定主義。なぜなら、社会契約によって設定された刑罰にのみ人間は拘束されるから。(2)主権者の立法権と人民の法令順守義務。社会契約によって人民が委託した自由を主権者が代理して行使する。そして、社会契約を維持するために人民はそれを守らなければならない。また、犯罪はあくまで契約違反だから、当事者は加害者と被害者であり、裁定者が必要となる。(3)残虐な刑罰の禁止。なぜなら、人間が主権者へ委託した自由は最小限のものだから。

 そして、法律の解釈は裁判官が行うのではなく人民が行う。なぜなら法律は人民による契約なのだから。裁判官の恣意によって不当な刑罰が科されてはならない。よって法定証拠主義をとる。そして、法律は明確でなければ厳格に適用することができないので、法律の恣意的な適用を防ぐためにも法律は明確でなければならない。だから、未決拘留は、法定された証拠に基づいて犯罪があったとされるときにしか許されない。

 以上要約。社会契約説から、罪刑法定主義、法律の明確性の原則、残虐な刑罰の禁止、法定証拠主義、法解釈主体が人民でなければならないこと、が導かれている。鮮やかな論理。刑法の諸原則を統一的に説明するために、社会契約説がこんなに有効だとは思わなかった。