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人権に対置される利益

 法は複数の保護すべき利益の間で、それらのバランスの上で適切なあり方を実現する。諸利益が対立する場合、対立項としてよく現れてくるのが人権である。法は、人権と他の利益との調整を図って規定されていることが多い。

 民法だったら、私的経済秩序維持の利益、取引安全の利益と人権が対置させられる。例えば即時取得は、本人の所有権という人権と、取引の安全という利益との対立において、その対立を調停するものとして定められている。

 刑法だったら、公共の安全の利益や他人の人権と、被告人の人権が対置させられる。刑罰によって人権を侵害してもよいほど公共の危険を生じた場合、初めて刑法は介入できるのである。逆に言えば、刑罰をもって対処するほどでもない公共の危険惹起に対しては、人権の保護の方が優位に立つ。

 民事訴訟法だったら、法治主義の要請、紛争解決の利益、私法秩序維持の利益と人権が対置させられる。原告はその人権を全うするためには自力救済が手っ取り早いかもしれないが、あくまで裁判所に訴えることによって解決することが要求される。被告は紛争解決のために応訴が強制され自由が侵害される。原告被告とも、訴訟手続きの規律に従わなければならない。

 刑事訴訟法だったら、実体的真実の発見と人権が対置させられる。強制処分法定主義は、まさにその二つの利益の調和点を目指したものである。

 行政法だったら、行政の円滑迅速な運営の利益と人権が対置させられる。行政処分に令状が必要かどうかは、その二つの利益の衡量によって決せられる。