社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

『メンタルヘルス・マネジメント検定試験公式テキスト三種 セルフケアコース』

 

  メンタルヘルスに関する検定試験のテキスト。メンタルヘルスの基礎が身につく。

 本書では、どういうものがストレスとなるか、ストレスへの対処法はどのようなものがあるか、メンタル失調に至るとどんな症状が出るか、ストレスへの気づき方、など、労働者が自らのメンタルヘルスを管理するために必要な知識が紹介されている。

 一般教養でも十分わかっている内容かと予想していたが、コーピングやソーシャルサポートなど知らない概念が出て来たり、より掘り下げた記述があったりと、とりあえずメンタルヘルスの基礎的な知識は習得できたと思う。二種、一種も勉強していきたい。

竹内洋『教養主義の没落』(中公新書)

 

教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化 (中公新書)

教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化 (中公新書)

 

  教養主義の変遷を描いた教育社会学の本。旧制高校の特に文学部で栄えた教養主義は、人文学を中心とする教養に重きを置いた。旧制高校教養主義は農村的で人格主義や理想主義と結びついていた。旧制高校が新制高校にとって代わると、石原慎太郎に代表されるような享楽的で反知性的な態度に取って代わられた。だが戦後、教養主義マルクス主義と結びつくが、結局新興ブルジョワから見たら時代遅れだった。そして、1960年代後半になってくると、大学のマス化が進み、大学生は知的特権階級ではなくサラリーマン予備軍に過ぎなくなり、教養は不要となり、それよりもテクノクラート的な技術知が求められるようになる。そうして教養文化は没落していった。

 本書は教養主義の歴史的変遷を文学作品などをベースに追っていて、きわめて興味深い。私などは教養人をもって自任しているが、教養人ももはや居場所を失っているのかもしれない。ただ、時代の趨勢として教養主義が衰退したということを社会学的に明らかにしているだけであって、教養主義そのものの価値については本書は何も言及していない。教養について考えるには類書をもっと読もうと思う。

元研究者志望者の社会人としての就職について

 私は大学院を修了している。初めは研究者を志望していたのだ。だが、アカデミックポストをめぐる現在の状況を鑑み、早いうちから自立するため普通のサラリーマンとして就職した。そこで直面したのはカルチャーショックだった。研究者の世界と社会人の世界ではかなりハビトゥスが違う。その断絶を克服することが私に初めに課された課題だった。

1 議論・批判はしない方がいい
 研究者にとって、論理はエチケットである。議論をすることや建設的な批判をすることはマナーですらある。ところが、社会人にはそこまで厳密な論理は要求されないし、初めのうちはただ上から言われたことを文句言わずこなしていればいい。
 研究者はだいたい自分なりの理論化されたポリシーを持っている。ところが、社会人として生きていくにあたってそういったポリシーはむしろ邪魔になる。柔軟な姿勢を持ち、様々な人の意見を等しく聞き、決して相手の優位に立たず、とにかく仕事について有益なことを述べればいい。

2 教養は隠した方がいい
 研究者はたいてい幅広い教養を持っているものである。だが、社会人は総じて教養の水準が低い。だから、周りの人たちに変に劣等感を持たれないためにも、自分の教養は表に出さない方がいい。
 雑談するときも、研究者相手に雑談するのではないのだから、教養が要求されるような話題を選ばず、誰もが安心して話せる話題を選ぶ。とにかく社会人の世界は出る杭が打たれる世界である。出る杭にならないために、教養は隠しておく。

3 自分は変わり者である
 研究者はたいてい少し変わっている。マイペースで自閉的で、おとなしくぎこちない。人間関係を楽しむよりは読書や芸術鑑賞を楽しんできた人種である。ところが、社会人の多くは勉強よりも人間関係を楽しんできた人たちである。そういう人たちに比べて研究者は人間関係のスキルが劣るものだという自覚が必要である。人間関係のスキルはいきなり身につかないので、焦らず少しずつ身につけていけばいい。それまでは変わり者でかまわない。

4 自分にはメリットもデメリットもある
 研究者は知識の習得が速い。また高度な仕事も迅速にこなす傾向がある。そういった事務処理の観点からは研究者にメリットがある。一方で、研究者は空気を読んだり柔軟に対応したりすることが苦手であり、周りになじむのも苦手である。その点でデメリットもある。メリットを伸ばしつつデメリットを少しずつ改善していき、より良い人材になっていく必要がある。

大塚康男『自治体職員が知っておきたい危機管理術』(ぎょうせい)

 

新版 自治体職員が知っておきたい 危機管理術

新版 自治体職員が知っておきたい 危機管理術

 

  東日本大震災もあって注目されている危機管理という分野。それは企業や公共団体でも常に問題になっている。本書は地方公共団体が直面する危機への対処法を網羅的に取り扱っている。

 危機管理の定義に始まって、リーダーシップ、マニュアル、情報・報告、交渉、災害対策、事故対応、不祥事対応、汚職防止、談合対応、着服、飲酒運転、セクハラ、コンプライアンス、クレーム対応、不当要求行為対応、マスコミ対応、議会対応、それぞれについて具体的な指針を示す。単なる抽象論に終わらず、具体的な行動指針を示している点で非常に参考になる。

 危機管理についてはさらに総論的な書物を読みたいと思った。

丸山利輔他『地域環境工学』(朝倉書店)

 

地域環境工学

地域環境工学

  • 作者: 丸山利輔,三野徹,冨田正彦,渡辺紹裕
  • 出版社/メーカー: 朝倉書店
  • 発売日: 1996/03
  • メディア: 単行本
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  昔なら「農業土木」と言われた学問の総論めいた教科書。

 「環境工学」を銘打っているだけあり、土地資源、水資源、生産環境、生活環境、地域環境、地球環境という幅広い観点から農村整備を捉えなおしている。確かに、農業土木というと単なる工事の学問みたいだが、実際にやっていることはこのくらいの射程を持った幅広い営みなのだ。最近「農業土木」という言葉が消え、「環境工学」などの名称が定着していることはあながち不自然ではなく、学問の本質と射程を俯瞰的にとらえなおした結果だろうか。