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談合罪の特殊性

 談合罪(96条の3第2項)における「談合」とは、公の競売・入札において、競争者が互いに通謀して、ある特定の者をして契約者たらしめるために、他の者は一定の価格以下または以上に入札しないことを協定することを言う(最決昭28・12・10)。だが、これは実行行為以前の共謀を処罰していることにならないか。談合とは、公務作用としての公正を害するような競売行為・入札行為の前段階で行われる謀議に過ぎないのではないか。実際に談合に沿った競売・入札行為が行われたときに、それを実行行為としてとらえ処罰すればよいのではないか。

 例えば、甲と乙がVを殺すことを共謀したとする。その時点で甲・乙が処罰されたのではたまったものではない。それこそ主観主義刑法であろう。法益侵害の結果発生の危険性は、通常の場合、共謀の段階ではいまだ発生しないとみなされているのである。だが談合罪は違う。共謀しただけで処罰され、実際に談合に沿った行動がなされることを要しないとされる(上掲決定)。これは、ひとつには、公務作用としての競売・入札の公正という談合罪の保護法益を重く見ているからでもあろうし、「協定」であるから拘束力が強く、談合の段階ですでに公正が害される危険性が相当程度高いとみなされているからであろう。

 では、談合罪の共謀共同正犯は成り立ちうるか。これは、共謀の共謀を考えているに等しい。実際に談合をする者とあらかじめ共謀して談合の計画を決めるような場合である。談合を実行行為とする以上、談合の共謀共同正犯は理論的に成り立ちうる。