社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

行為

 行為というものは、それに関係する様々な人や社会に影響を及ぼす。そして、それぞれの人や社会にとってそれぞれの意味を持つ。例えば警察官が被疑者を現行犯逮捕するとき、現行犯逮捕という行為は、被疑者にとっては身体の自由の侵害であり、警察官にとっては職務の遂行による自己実現であり、社会にとっては社会秩序の維持でありまた捜査機関への信頼の確認である。

 このように行為というものは原則として(法的ではない意味で)複効的である。だから、ある行為がある人にとって不利益になるのならば、それを正当化するには、その行為が不利益をできるだけ抑えたものであり、かつ他の人や社会にとって何らかの利益にならなければならない。

 ところで、行為というものは、ある特定の目的を実現するためにいくつか積み重ねられるものである。現行犯逮捕だったら、秩序維持や信頼確保という目的のために、有形力の行使、身体拘束という手段が用いられる。行為とは(1)目的のために(2)手段を積み重ねることなのである。

 それゆえ、侵害的な行為が正当であるというためには、(1)目的の正当性と(2)手段の正当性が必要である。いくら目的が正当でも手段が不当だったら行為は不当になるし、いくら手段が正当でも目的が不当だったら行為は不当になる。だから、侵害的な立法行為の正当性を判断する合理性の基準は、立法目的と立法目的達成手段の双方に合理性を要求する。また、現行犯逮捕は、通常目的は正当だが、その手段が例えば執拗な暴行だったりしたら違法になると思われる。

 行為は複効的であり、その行為によって何らかの利益が実現されるとしても、同時に何らかの不利益が生ずるのならば、その不利益をカバーするだけの正当性(利益の多さ・不利益の少なさ)が必要である。行為の正当性を判断するにあたっては、行為を構成する目的と手段という二要素に着目し、そのどちらの要素についても正当性が肯定されなければならない。