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物権と債権

 債権だって物に対する権利だと思う。金銭債権だって、札束を引き渡す身体的行為を要求しているわけで、物(札束)を渡す物(身体)を、その引き渡す瞬間拘束し支配しているのである。労働債権だと、債権の「物」性が如実に現れる。労働関係において、使用者は労働者の身体(物)を拘束し支配しているのである。

 物権は排他的だが債権は排他的ではない、そんなことが言われる。これは、物権が継続的に長い時間物を支配することが多いのに対し、債権は比較的短い時間債務者の自由を確保しながら債務者を支配することが多いからだと思われる。同一の物に対して二つの所有権が成立しないのは、支配が二つ成立することはないからだ。だが、同一人に対して100万円の債権が二つ成立したからといって、債務者は、違った時点に違ったお金を払えばよいのだから物理的な不可能性をきたすことはない。

 債権が物に対する権利であることが顕在化するのは、例えば同一時間に同一労務を要求する債権が二つ、同じ債務者に成立したときだ。債務者は、その「物」性ゆえ、両方の債務をともに実現することが物理的に不可能である。これは、同一物に対して所有権が二つ成立することが物理的に不可能な事態と似ている。この場合、両方の債権は有効に成立し、債務者は、片方の債務だけ履行して、もう片方の債務の不履行について責任を負うとされる。両債権は一応「成立」はするが、両方とも「実現」されることはないのだ。この点、物権に似ていないだろうか。所有権の二重譲渡は一応成立するが、所有権は対抗要件を備えた者だけに実現される。