権利とは基本的に他人に対するものである。自己の利益のために他人に作為・不作為義務を課すのが他人に対する権利だと思う。たとえば身体の自由は他人が自己の身体を拘束しないように不作為義務を課すものであろうし、代金債権は他人に代金を払うように作為義務を課すものであろう。物権は他人に義務を課さず単にその物を支配するという側面もあるが、それは物に対して受忍義務を課しているのである。
それでは自己に対する権利というものは存在するだろうか。つまり、自己の利益のために自己に義務を課することはあるだろうか。自己に対する権利は、権利を保持する主体としての自己と、義務を保持する主体としての自己との分裂によって初めて成立すると思われる。例えば、試験合格という私の利益を実現しようと、しばらくの間試験勉強をするように私に義務付けるとき、目的設定の主体としての私は権利保持主体としての自己であり、目的実現のために努力する主体としての私は義務保持主体としての自己である。
自己に対する権利とは要するに自己を処分する権利である。自分の思ったままに自分を動かす権利である。自由権とは、単に他人に対する不作為請求権であるのみならず、自己に対する作為・不作為請求権でもあると思われる。