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ヨット係留施設の撤去

 最判平3・3・8において、河川の鉄杭が危険だからということで町長が法律の根拠なくしてそれを撤去させたことの違法性が問題となった。これについて、最高裁は、鉄杭の危険性をかんがみて、町長の行為をやむをえないものとして、民法720条の法意に照らして許容した。

 この判例の理論構成として二通り考えられる。一つは、町長の行為は法律の根拠がないという違法性があったとしても、その違法性を阻却するだけの事情があった、という違法性阻却構成である。そもそも侵害行政に法律の根拠が必要なのは、行政の行為を国民が予測可能なものにして自由主義の要請を満たすべきであり、また侵害的な行政こそに国民によるコントロールを及ぼすべきだからである。この自由主義と民主主義の要請を考慮して、更には撤去される鉄杭の所有者の財産権も考慮して、それでもなお、鉄杭を撤去することによる利益が勝るのであれば、その違法性は阻却されると言ってよい。そもそもある行為が違法であるかどうかは、その行為によって実現される利益と不利益の調整によって決まるからである。

 もう一つの構成は、緊急避難というものを法の一般原則としてみなし、そうすれば本件撤去行為には法の根拠があったと考える構成である。緊急の侵害に対して他に代替手段がない場合は実力行使がやむを得ないとするのが法の一般原則であり、それが行政法の領域にも妥当すると考えるのである。こう考えれば、確かに形式的には法律の根拠がない本件侵害行為でも、実質的には法の一般原則の根拠に基づいた適法な行為なのである。