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原剛『日本の農業』(岩波新書)

 

日本の農業 (岩波新書)

日本の農業 (岩波新書)

 

  本書は、日本の農業の問題点とあるべき農業の未来について書かれた本である。20年も前の本であるが、当時の日本が抱えていた農業の問題は、今はある部分では深刻化し、ある部分では改善されているだろう。いずれにせよ、今日でも十分通用する基本的な問題が多数挙げられている。

 農業は単位労働時間当たりの収入が低く、それゆえ担い手は減る一方、従事者の高齢化が進んでいる。また、零細経営の非効率性も問題である。これに対しては、農業従事者が経営体として、経営の意志に基づき法人などを立ち上げ農業の効率化を図るべきである。

 また、農業は国土保全作用を担っており、特に水田の保水作用は全体ではダムを上回る。また土地という資源を有効活用する産業でもあり、耕作放棄によって国土の荒廃が進んでいる。

 また、農産物の輸入自由化による農家への衝撃などもあり、食の安全保障上の問題にも直面するようになった。

 そして、農薬や肥料は大気汚染や土壌汚染・水質汚染にもつながるものであり、有機栽培や低農薬栽培により環境に優しい農業の奨励が必要である。

 この本は、日本の農業がどのような問題にぶつかっているかを全体的に眺めていて、それに対して実際に政府が様々な対策を講じていることも伝えている。20年前の本ではあるが、担い手の高齢化、耕作放棄地の問題は身近に見知っているものであり、おそらく20年前よりも深刻化している。一方で、当時希望視されていた農業の法人化・大規模化・効率化は、今頃になってようやく軌道に乗り始めてきた感がある。とにかく、農業は問題だらけだ。