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詫摩佳代『人類と病』(中公新書)

 

 

  国際的な保健協力の観点から人類と病との関わりを読みといたもの。病に対する国際協力体制を「国際保健」「グローバルヘルス」という。国際保健は複数の共同体が感染症対策を始めたことに由来し、具体的には14世紀のペスト流行のときから始まる。その後チフスコレラの対策のため条約が締結されたり国際機関が設立されたりした。人類と病との戦いはこのような国際政治のステージで展開されるため、大国と小国とのパワーの非対称、世界経済の動向など、国際社会の様々な要素によって影響される。

 本書は国際保健の観点から見た国際政治の本である。国際政治というと戦争や貿易などが思い浮かぶが、疾病との戦いもそれがグローバルなものである以上国際政治のステージ上で動く。本書では感染症だけでなく、生活習慣病やタバコの害に関する国際協力にも触れているし、また薬へのアクセス可能性に関する国際的な不平等の問題にも触れている。構成がしっかりしているし、記述は簡潔で信頼できる本だと思った。国際政治はこのご時世ほとんどあらゆる領域で問題となってくるのかもしれない。