社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

阿部謹也『「教養」とは何か』(講談社現代新書)

 

「教養」とは何か (講談社現代新書)

「教養」とは何か (講談社現代新書)

 

  中世ヨーロッパ、魏の時代の中国、アイスランドサーガなど、様々な歴史的文化的状況をもとに、世間と教養について思考している本。

 日本人のプライベートな領域は「世間」の規則に則って、常識によって運営されている。建前上は西欧近代風のことが要求されてはいるが、日常生活を送るうえでは相変わらず世間の中で生きなければいけない。

 フンボルト的な純粋な学問による「教養」の理念は、ドイツの大学で主に発展していったが、エリート主義で富裕層の味方でしかなかった。だがドイツにおいては18~19世紀にかけて教養市民層が現れる。

 いずれにせよ、我々の生活世界は世間の原理で成り立っている。教養があるということは、世間の中で世間を変えてゆく位置に立ち、何らかの制度や権威によることなく、自らの生き方を通じて周囲の人に自然に働きかけてゆくことができることを言う。

 本書は豊富な歴史的具体例に基づいて世間と教養について考えている説得的な本であり、教養の位置づけも明確に書かれている。教養を持つ人間はそれとなく社会を少しずつ変えることのできる人である。その勇気を持つことが大事だと思う。

超勤を申告するか問題

 勤務時間をタイムカードで管理していて、時間外労働については確実に残業代を払う会社なら何の問題もない。ところが弊社では超勤をする場合はまず伺いを立て、決裁をもらったうえで実際に働き、のちに実績を報告するというシステムを採用している。そうすると時間外労働は正確には把捉されないことになる。
 もちろんサービス残業は労働法違反であり、黙認していれば雇い主は法的責任を問われる。だが、実態として日本ではいまだにサービス残業が横行している。その理由としては、残業代が人件費としてコストとなるため、会社に超勤を申告しづらい雰囲気があることなどがある。
 また、労働者側としても、実際に労働した時間であっても、「これは自分の仕事が遅いせいだ」「これは自分の勉強のためだ」として超勤時間として申請するのを控える場合もある。職場の慣行としても、「一時間程度の超勤はつけるまでもない」「朝の超勤はつけるものではない」などの風潮があったりして、超勤の申請がためらわれることが多い。
 判例上、会社の指揮監督下に置かれた時間は労働時間であり、たとえ労働者の仕事が遅くとも、労働者が仕事に不慣れであっても、一時間の超勤であっても朝の超勤であっても、みな残業代は発生する。
 さらに、昨今の労働報酬は抑え気味であって、残業代を稼がないとそもそも生活費を賄えない家庭が多い。そういう家庭を支える労働者としてはなるべく実際に行った残業については残業代を請求したいものである。
 ところで私は、朝8時半始業の会社に勤めているが、実際に出勤するのは6時台であり、いつも朝に2時間程度の超勤をしている。だが、私はまだ若手ということもあり自分の勉強のために早く出勤していて、しかも朝の超勤はつけづらい風潮にある。
 そこで、ノー残業デーの水曜日以外の日に、朝7時から8時半まで1時間半の超勤をつけることにした。これなら残業時間は多すぎず少なすぎず、勤務実態がそれなりに反映され、適正な給与が払われることになる。
 超勤の申告は労務管理上の問題でもあり、そのポストについた労働者がどの程度の業務量を抱えているかを判断する大きな材料となり、管理職がその後の人員配置を考えるうえで重要な資料となる。その意味で、私のとった方針はあながち間違いではなかったのではないか。

黒崎真『マーティン・ルーサー・キング』(岩波新書)

 

マーティン・ルーサー・キング――非暴力の闘士 (岩波新書)

マーティン・ルーサー・キング――非暴力の闘士 (岩波新書)

 

  アメリカの黒人の地位を改善させる運動を行ったキング牧師の評伝。

 キングはガンジーに倣い非暴力の哲学を採用して、行進する無抵抗な黒人たちに白人が危害を加える場面が報道されることにより、暴力的な白人たちへの世論による非難を利用して改革を導いていった。

 黒人の公民権を求める運動をしてワシントン行進の成功、歴史的な「I have a dream」演説などを行い、ノーベル平和賞を受賞した。だが、その後黒人側の暴力的勢力「ブラック・パワー」などの台頭により運動はうまくいかなくなる。それでもキングは目標を公民権獲得から経済的平等・平和へと移し、活動を続けるが暗殺される。

 本書はキング牧師の劇的な生涯を描いた好著である。キング牧師もまた高等教育を受けながら政治的能力に長け、行動的な人間だった。社会的不正は必ず誰かが主唱して改善されていく。主唱する人間は勇気を備え、困難にさらされるが、それによって莫大な数の人々の人権が救済されるのだ。歴史のダイナミズムを感じさせる本だった。

『メンタルヘルス・マネジメント検定試験三種 重要ポイント&問題集』

 

  ①メンタルヘルスケアの意義、②ストレスおよびメンタルヘルスに関する基礎知識、③セルフケアの重要性、④ストレスへの気づき方、⑤ストレスへの対処とストレス軽減の方法 について標準的で基礎的な知識が網羅されている。

 先にテキストを読んでいたが、こちらは簡潔に要点をまとめていて一層わかりやすく、さらに問題集もついているので知識の定着にもなる。これから、というよりもう既に職場におけるメンタルヘルスケアは重要な問題になっているため、このような試験は大変有意義である。続けて二種、一種と学んでいきたい。

瀧本哲史『ミライの授業』(講談社)

 

ミライの授業

ミライの授業

 

  14歳の子供たちに向けた未来を創るための書物。

 歴史上の人物たちが成し遂げたことから現代を生きる教訓を得ようとする。ナイチンゲールはじめ数多くの歴史的人物たちの生きざまから抽出された未来を創る法則は、

①日常にある違和感を掘り下げ、データという証拠で検証する。

②まだ誰も手を付けていない空白地帯に仮設の旗を立て、仮説を修正する勇気も持つ。

③新しい考え方はルールを作って伝え、目に見える形にしていく。

④自分の個性を知って個性豊かな仲間たちとパーティーを作る。

⑤世界を変えるのは新人であり、世代交代が時代を変える。

 「愚者は経験から学び賢者は歴史から学ぶ」という言葉通り、歴史から現代という時代の生き方を指し示してくれる好著。著者の経営コンサルとしての経歴が生きているのだと思うが、歴史とは常に旧来の保守的勢力と新しい革新的勢力の拮抗だったというのは事実だと思う。そこで新しい世界観や価値観をいかに提示しいかにプレゼンしていくか。何も「時代を変える」などといった大げさなことでなくてもいい。例えば仕事を改善するとか、自分が携わっていることについて少しずつ時代に合わせていくことは可能である。組織人としては新しいことを起業したりは難しいが、担当業務を少しずつ改善するという形で新しい風を吹き込めればいいなと思う。