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株主総会と民事訴訟

 株主総会も民事訴訟も、複数の人々が意見を出し合って問題に対してひとつの結論を出すと言う意味では共通している。だが、もちろん様々な違いがある。

(1)手続の適正迅速の要請について

 民事訴訟では、公の資源である裁判所を使用するため、無駄のない適正・迅速な審理をしなければいけない。そのため、準備書面の提出や準備手続などで争点を明確にし、時期に遅れた攻撃防御方法は却下し、欠席者には不利な取り扱いがなされる。その点、株主総会は特に公の資源を利用するわけでもないから、争点整理などで適正迅速を期する必要がない。

(2)判断基準について

 民事訴訟では、法という判断基準が厳格に存在し、当事者は法が作動するように事実や証拠を提出していく。逆に言うと、当事者は判断基準を提示する必要はない。それに対して、株主総会には確立した判断基準は存在しない。出席株主は、事実や証拠を提出するだけでなく、判断基準をも提示しなければならない。取締役の選任決議だったら、例えば、「人格が優れていて頭の良い人を選ぶべきだ」という判断基準を提示し、その上で、自分の擁立する候補について人格の優秀性・頭の良さを基礎付ける事実を主張していく。

(3)判断権者について

 民事訴訟では裁判官に最終的な結論を出す権限がある。問題を提起する者(当事者)と解決する者(裁判官)が別なのだ。それに対して、株主総会では、株主にも議題提案権があり、問題を提起する者(株主)と解決する者(株主の多数決)が自同的な場合がある。法的な争いについては私法秩序維持の観点から公正中立な第三者の判断を仰ぐべき要請があるが、特に公益との関係が密なわけでもない株主総会では公正中立な結論が出される必要性はない。株主の利益に合致すればそれでよいのである。

(4)議論の場の構成について

 民事訴訟では、原告被告の対立構造をとる。これは、(1)で述べた、争点をクリアーにする要請から来ているのだと思われる。また、(2)で述べたように、判断基準も厳格に確立しているため、それ以上判断基準を提示しあう必要がないので、多数の当事者を対立させる必要がない。その点、株主総会では、様々な観点から様々な人が意見を出し合うことによる豊かな議論が要求される。そこでは確立した判断基準がないため、多角的で多様な判断基準が多数提示されることが要求される。そうなると、二者対立構造は議論の単純化となり妥当な結論が導けないことになる。