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権利・義務の抵触

 今、ある人に二つの権利があるが、この二つの権利は互いに矛盾しているとしよう。例えば、契約を締結する権利としない権利。契約を締結することで、取引行為を通して収益を上げるという利益が実現され、契約を締結しないことで、取引に伴うコスト・リスクを回避できるという利益が実現されるとする。この人が一方の権利を行使する場合、例えば契約を締結した場合、収益を上げることができるという利益が伴うと同時に、契約に伴うコスト・リスクという不利益が伴う。だがここに問題は生じない。なぜなら、権利が志向しているのは権利主体自身の利益であり、権利主体はその利益を自分から放棄できるからだ。だから、契約に伴うコスト・リスクを回避する利益を放棄することは可能であり、なんら問題は生じない。

 一方で、ある人に二つの義務があるが、この二つの義務が互いに矛盾している場合、問題が生じる。例えば、ある人に文書提出義務と守秘義務が同時に課された場合。文書を提出することは守秘義務違反を来たし、守秘することは文書提出義務違反をきたす。義務において問題になっているのは、義務の主体ではなく第三者の利益である。よって、義務の主体はその利益を放棄できない。ここで、どちらの義務に従ったらよいのかという葛藤が生じ、結局は、どちらの義務によって実現される利益がより重要であるかの利益考量によって、義務の主体の従うべき義務が決まる。

 このように、権利が志向する利益は権利主体自身の利益であるから、権利主体はその利益が処分可能なのに対して、義務が志向する利益は第三者の利益であり、義務主体はその利益を処分できない、という原理的な違いがある。

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