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放棄できない権利

 権利というものは、誰でもいつでも自由に放棄できるかのようにも思える。自分で自分の利益を放棄するのは自由だ、というわけである。ところが、放棄できない権利というものもある。

 人権の不可譲性の議論の中で、権利を保持・行使することが同時に義務にもなっている場合、権利は放棄できないとされている。たとえば自由権を完全に放棄すると、悪人に利用されることで犯罪を犯しかねなくなるから、自由権の完全な放棄は義務違反となりしてはいけないことになる。また、親の子に対する権利は、その権利を行使することが同時に義務でもあるから、これまた放棄できないとされる。

 民法にも似た規定がある。398条である。抵当権の目的となっている地上権等は放棄しても抵当権者に対抗できない。この規定に似たものとして、賃貸借契約の合意解除は転借人に対抗できないとされている。合意解除は賃借権の放棄であるが、賃借人は、転借人のために賃借権を保持し続ける義務があるから、賃借権の放棄はその義務に違反し、できないことになるのだ。