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比較

 刑事訴訟における請求の趣旨は「被告人をXに処する」であり、請求原因は公訴事実であろう。とすると、訴訟物は請求の趣旨と公訴事実によって決まるのだから、例えば「被告の窃盗行為にもとづく刑罰権」のようなものだと思われる。

 民事訴訟においては弁論主義が妥当し、当事者が主張しない事実を裁判所が認定することはできないが、刑事訴訟においても、公訴事実以上の事実を裁判所は認定することができない。いずれも、当事者や被告人の防御上の利益を考えている。だから、刑事訴訟では訴因変更は公訴事実の同一性の範囲内でしか行えないし、民事訴訟でも訴えの変更は請求の基礎の同一性の範囲内でしか行えない。

 民事訴訟と刑事訴訟の一番の違いはおそらく処分権主義の有無である。刑事訴訟は、結局のところ、被告人の非違行為に基づく義務存在確認の訴え(罰金を払う義務や懲役に服する義務などの確認の訴え)、(あるいは国家の刑罰権の確認の訴えであろうが)、一般予防・特殊予防・社会秩序維持のために、この義務は非違行為があるときには必ず国家によって課されなければならないので、非違事実が存在する場合には必ず法的な義務確認を行わなければならない。また、刑事判決は単なる確認判決ではなく、給付判決のような執行力もある。刑事訴訟は、法的な効果を必ず発生させなければならないような事実を扱うので、そこに処分権主義の入り込む余地はない。民事訴訟の扱う事実は法的効果を発生させる事実ではあるが、その法的効果は必ずしも裁判によって確証される必要がないのに対し、刑事訴訟の扱う事実は、その法的効果が必ず裁判によって確証されなければならないのである。そこから、刑事訴訟における実体的真実発見の要請も導けるだろう。