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金菱清『震災学入門』(ちくま新書)

 

震災学入門: 死生観からの社会構想 (ちくま新書)

震災学入門: 死生観からの社会構想 (ちくま新書)

 

  災害のリスクを低減させるには、その社会がレジリエンス(回復力、抵抗力)を備えていることが必要である。生活を共にしたコミュニティの維持・継続を目指すことが、被災後の包括的な災害リスクを総合的に低減できるレジリエンスをそなえた方策である。

 本書は、災害後のレジリエンスを高めるためにいくつかの提言を行っている。

①震災の痛みを除去するのではなく、むしろ痛みを温存して、痛みを愛する家族とともに保存するということ。

②死んだ人間をまったく死んだものとして捉えるのではなく、生ける死者として、曖昧に喪失された者として関わっていくこと。

③行政の押し付けた防潮堤やらコミュニティをそのまま受け入れるのではなく、海と陸の交通や人同士のつながりを維持したコミュニティを保存すること。

 本書は、震災に対して行われた行政側の治癒策についていくつかの観点から批判的に論じたものである。それは総じて、ハードな政策よりもより人々の心に沿ったソフトな政策、画一的な政策よりもより当事者に応じた個別的な政策である。震災によって非常に複合的な問題が生じている中、その問題を腑分けしたうえでの提言は非常に刺激的だった。