社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

本田創造『アメリカ黒人の歴史』(岩波新書)

 

アメリカ黒人の歴史 新版 (岩波新書)

アメリカ黒人の歴史 新版 (岩波新書)

 

  アメリカ黒人の歴史についての標準的な教科書。

 黒人は奴隷貿易によってアフリカから過酷な状況のもとアメリカに連れてこられた。奴隷制度は次第に法律によって定められるようになり、独立戦争でも黒人が活躍したにもかかわらず、独立憲法には奴隷制度が明定されてしまった。奴隷たちは主に南部の綿花プランテーションで過酷な労働にさらされた。

 そんな中で、奴隷制廃止運動(アボリショニズム)も高まりを見せる。雑誌や組織活動を通じて活動するものが多かった。中には自由黒人という、自由を買い戻したり何らかの理由で解放されたり逃亡したりして奴隷でなくなっていた黒人もいて、運動に加担した。結局南北戦争のときの奴隷解放令によって奴隷は解放された。

 だが、奴隷解放令があっても以前黒人は差別され続けた。黒人たちは地位向上のため運動を続け、特に公民権獲得のための運動をした。バスや劇場や学校などで差別されないよう求めた。黒人たちは非暴力で活動を進め、バスボイコットやシットインなどで自分たちの権利を主張した。状況を見たケネディは新公民権法案を議会に提出し、次のジョンソンのときに1964年公民権法が成立し、選挙の際の平等や公共施設・公共交通機関における平等、公教育における平等が定められた。

 いきなり読むとあまり頭に内容が入ってこない本かもしれない。そのくらい教科書的に淡々と書かれた本である。私の場合はキング牧師やマルコムXのことを知っていたのでだいぶ理解は早まったが、何らかの具体的な知識があるとイメージしやすいかもしれない。いずれにせよ、奴隷制度は重大な人権問題であったわけであり、それは人種問題ということでいまだに普遍性をもつ課題である。これから移民が増えてくる日本でも気をつけねばならない。

荒このみ『マルコムX』(岩波新書)

 

マルコムX (岩波新書)

マルコムX (岩波新書)

 

  黒人運動家でオバマにも影響を与えたマルコムXの評伝。

 マルコムXはネイション・オブ・イスラムのスポークスマンとして活躍した。キリスト教は白人の宗教であるとして黒人にイスラム教をすすめ、白人は悪魔であるなどの過激な言説で知られた。それまでに蓄積された黒人=黒=悪というイメージを逆転させ、白人こそ悪であるということを例えば戦争や暴力の観点から訴えた。非暴力を訴えたキング牧師とは異なり暴力を肯定したが、飽くまで正当防衛の範囲内だった。後半はパン・アフリカニズムを唱え、アメリカ黒人とアフリカの連帯を期した。彼の生んだブラック・パワーはのちのブラック・スタディーズの元になっている。

 マルコムXはかなり正直な人間だったと思う。正直キング牧師はどこか偽善的な匂いがするが、マルコムXは黒人の置かれている状況を直視して、白人に対して明確な憎悪を抱いていた。それが彼の言説にも表れ、多くの黒人を魅了したのだと思う。いずれにせよ、活動家に必要なのは言説の力であり、行動力であり、カリスマである。

職場のマウンティング合戦をどう回避するか

 草食系のおとなしい人ばかりの職場なら問題はありません。ところが、それなりに給料の高い職場だと、バリバリに野心を抱いている人が結構いたりします。そういう人に多いのがマウンティング傾向です。とにかく他人に負けたくない。何とかして他人よりも上に立って優越感を味わいたい。
 彼らにとって仕事ができることはとても重要です。あと仕事を大量にやっていることも重要です。質量とも自分は仕事をこなしている、そのことによって他人に対して優越感を持とうとします。
 彼らにとって能力のある人材は脅威です。なぜなら彼らのプライドをへし折るからです。自分よりできるやつが自分の部下としてやってきた暁には、何とかして部下をつぶそうとします。管理職レベルになるとこういうことも少ないのですが、中間管理職あたりだとこういう傾向が強いです。そこでパワハラを行ってしまう中間管理職が後を絶たない。
 私は東大卒、東北大院卒です。ところで職場の平均学歴は地方国立大学です。そういうこともあり、評価される一方いろいろと足を引っ張ってくる連中もいました。ですが、一番困ったのが野心的な中間管理職からのパワハラです。とにかく相手に優越していない時が済まない中間管理職が東大卒の私をつぶしにかかってくるのです。
 結局、私はより上位の職の方に相談して場を収めましたが、優越感を求める人間の心理は止むことがありません。で、結局何が必要かというと、自分が高学歴であるならば高学歴にふさわしい実力を身につけて文句を言わせないということです。私は採用間もない時期にパワハラに遭いましたが、その頃はまだ実力がついていなかった。そこに付け込まれたのです。ですが、学歴に見合った実力がある人間には誰も何も言いません。そこまで自分を高めるということが大事なのです。
 結局、職場のマウンティング合戦への対処法は、自らが真の実力者となることだと思っています。そして常に低姿勢で相手のプライドに配慮すること。うまくやっていきましょう。

浅野順一『モーセ』(岩波新書)

 

モーセ (岩波新書 黄版 32)

モーセ (岩波新書 黄版 32)

 

  旧約聖書の中のモーセ五書の内容を要約し、モーセの生涯に解説を加えたもの。モーセの人柄から役割、成し遂げたことなどを、聖書の原語や当時の社会に照らして解説している。それと同時に、キリスト教の神としてのヤーウェがどのような神であったか、ヤーウェと人間との関係やヤーウェとモーセの関係、ヤーウェがどのようなことを語ったかなどについても書かれている。

 総じて旧約聖書の理解を助ける本である。モーセの歴史的実在性はひとまず置くとして、聖書に書かれたところからモーセ像を浮かび出し、その特質について解説を加えている。その際に言語学歴史学の知見を使用している。読み物としても読みやすく、旧約聖書の勉強にちょうどいい。

仕事と読書

 社会人で読書の習慣を持っている人は意外と少ない。たまに読書が趣味だという人がいても、読んでいる本は小説かビジネス書である。確かに小説は娯楽になるし、ビジネス書は実践的かもしれない。だが私はそれ以外の読書をぜひとも推奨したい。それは例えば、福祉業界にいる人には福祉関係の本を読んでもらいたいということである。それは新書レベルでも専門書レベルでも構わない。とにかく自分がやっている仕事の周辺の本を読むことが大事だと考える。
 その理由として、パフォーマンスの向上、意欲の向上を挙げようと思う。自分の携わっている分野周辺の本を読むことで、自分の仕事の知識が増え理解が深まる。これは仕事のパフォーマンスに反映される。意味もなくルーチン的に仕事をするのと、仕事の構造などを理解したうえで仕事をするのではおのずと仕事の成果に違いが出てくる。
 また、自分の携わっている分野周辺の本を読むことで、自分の仕事の意義が分かってくる。自分の仕事がその分野のどこに位置付けられどんな役割を果たしているか、そういうことが読書によってわかってくるのである。そうするとおのずと自らの仕事の存在意義、ひいては自らの存在意義が明らかになり、仕事への意欲が増すのである。
 確かに異論はあるかもしれない。与えられた仕事を間違いなく迅速にこなせればそれで何の問題はないし社会に貢献できると人は言うかもしれない。だが、そこはもっと貪欲により一歩先を目指そう。仕事関係の読書をすることで、無機質だった苦しい仕事が有機的で意義のある仕事に変わっていくのである。そのことによる成果の向上と意欲の向上は決して無視できない。
 社会人よ、本を読もう。