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心裡留保の絶対的構成

 虚偽表示の事例で、ABが通謀してAからBへ甲を売った場合、虚偽表示行為のあとに取引関係に入った善意の第三者Cは保護される。さらに、Cからの転得者Dは悪意であろうと、絶対的構成によれば保護される。

 心裡留保でも事情は同じではないか。Aが真意に反しそれを認識しつつ表示行為をしてBと取引したとき、Bが善意なら保護される。では、Bと取引をする第三者Cが悪意の場合、Cは権利を取得できるか。相対的構成をとれば、たとえBが善意でもCは権利を取得することができない。それに対して、絶対的構成をとれば悪意のCでも保護される。

 仮に絶対的構成をとった場合でも、BがCの「わら人形」として介在させられた場合にはCは保護されないとされている。だから、たとえば、Aはことあるごとに、売る気もないのに自分所有の美術品を「売る」と気前よく言ってしまうような人であるとして、CはAが売る気もないことを知っているとする。だが、CはA所有のある美術品が欲しい。そこで、情を知らないBを介在させ、Aが心裡留保の意思表示をするような状況を作り出す。そして、Bが有効にその美術品を取得したところで、CはBからその欲しかった美術品を取得する。このような場合、Cは保護されないとしてもよいのではないか。