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受益・負担の意思表示

 第三者のための契約において、第三者の権利の発生の時点は、受益の意思表示の時点だとされる(537条2項)。「受益の意思表示」というのは、何か特別なことをしているようにも思える。普通の二当事者間の契約には存在しない要素であるかのように見える。だがそうではない。

 契約をするということは、まさに、受益の意思表示と負担の意思表示をするということである。当事者が、権利を得るという受益の意思表示と、義務を負うという負担の意思表示をすることである。権利を得たり義務を負ったりすることは、個人の自由にゆだねられているので、その自由に基づいて受益・負担の意思表示をするのである。受益の意思表示は、第三者のための契約においてのみ問題となるわけではない。普通の契約でも問題になっているのだ。

 さて、537条1項では第三者に権利を与える場合しか規定していないが、二当事者間で第三者に義務を負わせる契約を結ぶことも可能ではないかと思えてくる。第三者がそれに対して負担の意思表示をすれば何も問題はない。それに対応するのは例えば債権譲渡であろう。譲渡人と譲受人の契約によって、債務者は、新たに譲受人に対して義務を負うことになる。この場合、特に債務者の負担の意思表示が要求されていず、譲渡人による債務者への通知のみで債務者に対抗できるとすることには疑問を感じる。債務者には新たな債務を負うことについて承認する自由があるのではないか。もちろん、債権譲渡においては債権の同一性が維持されているのだから、債務者の債務には特に変更はないのだ、という反論はあるだろうが。