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立法事実

 違憲審査においてなぜ立法事実が出てくるのか分からなかった。違憲審査とは憲法と法律との何かしら論理的な関係を審査するのかなあと漠然と思っていた。だがそれは違う。

 法律による人権制限は、公共の福祉による人権制限である。公共の福祉が人権に優越するかしないかを基礎づけるのが立法事実だ。人権の種類によって、どれだけの立法事実が要求されるかが異なってくる。

 たとえば表現内容規制では「明白かつ現在の危険」の基準が学説上主張されている。これは、国の側で、明らかに差し迫った実質的害悪を当該表現が引き起こすことを示す社会的事実をいくつか挙げ立てることで立法事実を証明し、そのことによって法律の合憲性を基礎づけようとする基準である。ここでは、人権制約の非常に強い必要性を示す必要があるが、その必要性を示すことができるのは社会的事実、すなわち立法事実なのである。

 ほかの違憲審査基準においても、法律の合憲性を基礎づけるためには人権制約の社会的必要性を示す必要があり、その社会的必要性を示すのが立法事実なのである。つまり法律とは公共の福祉が姿を変えたものであり、公共の福祉を基礎づけるのが立法事実なのだから、人権規定と法律とを対照する場合には、人権規定と立法事実とを対照しなければならない。