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断片性

 刑法の謙抑性の一内容として、刑法の断片性があげられる。これは、単なる不利益ではなく、侵害者を処罰する必要があるほどの法益侵害があって初めて刑法が介入するべきだとする原理である。だが、法システム自体がそもそも断片的ではないか。

 人間が生活する上で、法による権利義務の確証はめったに起きない。確かに理念的には、人間が生きているどの瞬間でも刑法によって課される不作為義務がその人間を規定しているとはいえる。どの瞬間でもその人間は基本的人権を享有している。だが、それが生活を直接規定したりすることはない。人間の生活の意味連関では、基本的に法律は意識されていない。買い物をするときでも民法など意識しない。ただ日常的な合意があるのみだ。

 事実を法的に構成して効果を発生させるという法システムの介入は、日常生活ではめったに起きない。その意味で、法は本質的に断片的であり、この断片性は刑法に限られたものではない。