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自分

 そういえば私は、大学時代、「俺は学者か犯罪者にしかなれない人間だ」とよく言っていた。普通に社会に出てもどうせ問題を起こしてつまはじきされるのが関の山だ、そう思っていた。その人間がどうだ、大学を出たら一転して国家公務員になろうなどと考え法律の勉強を始めた。国家権力の側、正義の側にいとも易々と転向してしまったのだ。そこに矛盾を感じるほど私はその頃鋭くなかった。だが、結局はその矛盾を抱えたまま大学院に入り、国家試験に突入した。大学院の教育で、いつの間にか正義感を埋め込まれ、いよいよ潜在的な矛盾は大きくなっていったのだ。今頃になって、自分みたいな人間が正義の側に付くことの絶望的な矛盾をまざまざと実感している。だが、成熟がこの矛盾を多少なりとも和らげた。歳をとるごとに愛他的に変わっていったからだ。

 正義などというものに対する根源的な不信を抱えながら、それでも正義を追求して法律を学んでいく。この葛藤は一生消えないだろう。正義を追求するためには既存の正義に対する批判的な視座が必要であり、そう考えると私のような人間は逆に正義を追求するのに向いているのかもしれない。優等生にだけはなりたくない。