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本橋哲也『ポストコロニアリズム』

ポストコロニアリズム (岩波新書)

ポストコロニアリズム (岩波新書)


 不正義のあるところに政治の問題が起こる。だが、政治的不正義と法的不正義は異なる。法的には合法であろうと、政治的には不正義である、そういう問題は多数存在し、政治的不正義を打開すべく法的正義は絶えず変遷を迫られるのだ。ポストコロニアリズムは、何よりも、法的正義の問題に不当にも掬いあげられていない政治的不正義を弾劾し、生身の行動を通じて正義の実現を図ろうとする。

 コロニアリズム植民地主義)は、植民国による被植民地への不当な暴力以外の何物でもなかった。それは、端的に破壊や占領をするという物理的暴力だけではなく、被植民地の住民を劣等視したり差別したりするイデオロギー的な暴力でもあったのだ。そして、コロニアリズムからの脱却は、単に被植民地が宗主国から独立するというそれだけのことでは解決しない。多くの植民地が独立した後も、世界的な政治経済構造により不当に搾取され、実質的に経済大国の植民地となっている地域は数多くある。

 ポストコロニアリズムは、宗主国主導の言説や政治経済システムを批判し、宗主国と被植民地とを対等な立場まで引き上げ、何よりも、声を上げることもできずに搾取され続ける弱者の声を聞き入れ、ともに対等に生きていくことを要求する。要するに、ポストコロニアリズムは、支配と被支配という政治的不正義を、政治経済・文学・言説のどの次元においても解消することを求めている。支配の論理がたとえ法的には合法であったとしても。