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江頭進『進化経済学のすすめ』(講談社現代新書)

 

進化経済学のすすめ―「知識」から経済現象を読む (講談社現代新書)

進化経済学のすすめ―「知識」から経済現象を読む (講談社現代新書)

 

  生物の進化は環境に対して中立的なDNAが残るという消極的なものでしかないが、社会の進化は、情報の蓄積・歴史の蓄積によって獲得されたものが後代に遺される、という形の積極的なものである。そして生物進化は遺伝という一方向のものだが、社会進化はコミュニケーションを通した双方向的なものである。

 社会進化によって、個人は様々な制度を受け継ぐことができる。この「制度」は世界認識の枠組みという広い意味でのものであるが、それは次第に普遍化されルーチン化されるものである。制度の普遍化とルーチン化は効率性を生み出し、社会の繁栄に結び付くが、そこでは常に多様性への配慮がなされなければならない。市場主義や民主主義は社会進化の産物として多くの社会をその普遍化の波に取り込んできたが、それは多様な幸福観と衝突しうるものである。効率性の追求だけではなく、個人の多様性にも配慮しなければならない。

 本書は非常にとっつきやすく、記述も平易だが、今一つ細部への配慮に欠けるような気がした。例えば、制度の普遍化と個人の多様性の衝突については大問題だと思うので、そこについてはもっと踏み込んだ議論が欲しい所だった。全体的に統合があまりよくなされていない印象ではあったが、経済と進化というテーマについて考えるきっかけとしては良いのではないだろうか。