失踪の現場において問題となっている親密なるものへの責任について考察した学術論文。
現代においては人間関係が伝統的な拘束から解放され、各人が自由に取り結べるようになった。しかし、同時に人間関係が自由になるほど、その親密な人間関係が当事者にとって重たいものになってきた。人間関係は自由というよりそこからの離脱を許さないものとなっている。
失踪というものは、親密なるものへの責任(親密なものと応答しなければならないという責任)から逃れようとする行為であるが、失踪によって実際に責任を逃れることは容易ではない。様々な条件が重なって、失踪が個人の責任を免除することになる可能性があるのみだ。
本書は失踪という現象を題材にしながら、現代における親密な他者とのかかわりについて責任の観点から論じている。自由なようでありながら不自由な現代の人間関係。その実態を明らかにしている点で非常に興味深い。非常な労作という感じがした。