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中野雅至『「天下り」とは何か』(講談社現代新書)

 

「天下り」とは何か (講談社現代新書)

「天下り」とは何か (講談社現代新書)

 

  公務員というのは叩かれやすい。それは、彼らが我々の税金で生計を立てており、その割にはそれなりの収入を得られる良い職業であり、身分保障が厚く、また高倍率の筆記試験を通過しないとその地位に就くことができないことに由来すると思われる。試験で選抜されたエリート、安定したそれなりの身分、しかも税金で暮らしている。我々としてはどうしても嫉妬してしまう存在である。だから、公務員の不祥事があったり公務員が天下りしたりするとどうしても感情的に攻撃してしまいがちである。だが、公務員とはそんなに非難すべき職業なのだろうか。

 中野雅至『「天下り」とは何か』(講談社現代新書)によると、天下りは、組織活性化のための早期退職勧奨を受けた人の就職先を確保したり、同期横並び昇進で上のポストにつけなかった人の就職先を確保したり、役人の年金水準の低さを補ったりするために生じた慣行である。天下りには合理的な理由があるのである。だがもちろん、天下りのための公益法人をつくったり、天下りを繰り返す「わたり」が存在したり、政官業の癒着が生じたり、天下りには弊害もある。一方、天下りを受け入れる先には自分たちの業界を省庁に守ってもらえるというメリットもある。

 天下りは公務員の特権として、税金の無駄遣いとしてよく批判されるものであるが、その発生には合理的な理由があり、弊害があるもののメリットもある。天下りについてきちんとした知識を得ることで、我々は天下りを感情的に叩かなくて済むし、そもそも公務員に対して誤ったイメージを持たなくて済む。

 正しい知識を持つことは、社会的な軋轢を少なくする。公務員や天下りについて客観的で中立的な知識を持つことで、我々は不要な公務員叩きをしなくて済む。そのことによって、我々も公務員もお互い過ごしやすい社会が実現するのである。公務員叩きをする前に、まずは公務員について正しい知識を得ることから始めよう。