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山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)

 

 経営においてアートの重要性が増していることを指摘している本。経営はアートとサイエンスとクラフトからなっている。アートは直観、サイエンスは科学的知見、クラフトは技術的熟練である。これまでの企業はサイエンスやクラフト重視のところが多かったが、成功しているところではアート、つまり経営的直観が生かされている。そして、アートは美意識も意味する。多くの企業で不正がなされたのはこの美意識、つまり善悪の倫理感が欠如していたからである。コンプライアンス的にもアートは重要性を増している。

 サイエンスによってはコモディティ化が生じるというのは確かにその通りだと思う。誰にでもできるのがサイエンスであり、これまではとりあえずサイエンスを取り入れていればよかった。だがこの変化の激しい時代に皆が皆同じことをやっていては新しい発想は生まれない。新しい発想や時代に立脚した発想を生み出すにはアートが不可欠なのだろう。今まで皆が漠然と感じていたことを見事に体系的に言語化した優れた本だと思う。だがもちろん、アートには不確実性が伴う。この不安定なアートとの付き合い方を模索していかなければなるまい。