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筒井清輝『人権と国家』(岩波新書)

 

 人権と国家という相対立するものがどのように絡み合ってきたか検証している重厚な本。過去数世紀の間に、大国間の駆け引きの中で大義として使われてきた人権が、予期せぬ形で徐々に正当性を獲得し、同時に一般市民の間でもメディアや大衆文化を通じて普遍的人権に対する感覚が醸成され、国際人権が現在の強固な地位を確保するに至った。国家の力と力がぶつかり合う国際政治の舞台で、国家の力を制限する人権という価値観が強力な正当性をもって浮上するという逆説的な歴史の流れだった。

 国家というものはできることなら人権を制限して自らの権力を行使したいし、一方で民衆はできることなら人権を主張して国家のやりたい放題を制限したい。国家と人権は拮抗する二つの勢力であり、本書はこの二つの勢力の歴史的な推移を明らかにしている。結局、初めは大義名分でしかなかった人権が、普遍的人権の地位を獲得し、内政干渉を肯定するにまで至った。この過程を重厚で緻密でドラマチックに描く。名著である。