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長谷川三千子『バベルの謎』(中公文庫)

 

バベルの謎―ヤハウィストの冒険 (中公文庫)

バベルの謎―ヤハウィストの冒険 (中公文庫)

 

  本書は旧約聖書天地創造からバベルの塔までの記述をある一つの観点からとらえなおしている評論である。

 旧約聖書を書いたのは主に一人の人物であり、その人物を「ヤハウィスト」と呼ぶ。ヤハウィストがどのような意図でこの物語を書いたか、その一つの解釈を示すのが本書である。著者によると、ヤハウィストは「神と人と地」とのドラマを描いた。

 ヤハウェ神は、得体が知れず常に死とつながっている「地」を呪い、「地」と対立し、自らの創造物である人間と「地」とを切り離そうとした。その観点から、楽園追放、大洪水、カインの物語、バベルの塔の物語を大胆に解釈していく。

 本書は極めて筋道の通ったまっとうな評論であり、もちろんこれは聖書の一つの解釈に過ぎないが、読んでいて極めてスリリングで楽しい解釈である。楽しく読めてしまうから自然と聖書の内容も頭に入ってしまい、聖書入門にも適した本である。長谷川にはもっと評論を書いてほしかった。