社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

橋本卓典『捨てられる銀行』(講談社現代新書)

 

捨てられる銀行 (講談社現代新書)

捨てられる銀行 (講談社現代新書)

 

  金融庁の森長官の地銀改革について述べている本。地銀が地方の中小企業に寄り添いともに成長を遂げることで地方の創生は実現されるのだが、実際は不良債権処理を最優先し、担保や保証に依存した貸し出しで顧客の事業をないがしろにしてきた。森長官は顧客の事業を評価することにより貸し出しの是非を決めるというやり方に転換するよう地銀に求める改革を断行した。これからは顧客に寄り添えない地銀は捨てられていくだろう。

 本書は銀行が不良債権処理に追われた時代のままのやり方を継続していることに対して金融庁長官が本来の銀行のあり方を再提示した経緯について詳細に論じている。主張自体はシンプルなものであるが、それをディテール豊かに論述していくことにより説得力が増していく。確かに、地方にとって大切な企業は多少のリスクがあっても生き残らせるべきだし、注目すべき事業を展開する企業についてもリスクを負って援助するのが本来の銀行のあり方であろう。金融系の本は読んでこなかったのでとても新鮮だった。

 

大学院へ行くべきか問題

 

 水月昭道高学歴ワーキングプア』(光文社新書)を読んだ。大学院重点化の旗印のもと大学院が多数設置され定員も増やされたが、少子化のあおりを受けてそこで博士号を取った人たちの研究者としての就職は絶望的である。博士号をとっても常勤の研究職に就くのは夢のようなもの、たいてい非常勤講師やアルバイトでワーキングプアの地位に甘んじているのが現状。高度な教育を受けた人たちの受け皿が日本に用意されていないことを鋭く突いた本である。

 実は私も一時期は研究職を目指していた。大学での専攻は科学哲学だった。大学院入試を受ける際、指導教員に言われたのは「大学院に行くのは決してお勧めできない」ということだった。要は職がないのである。特に私の専門分野である哲学なんて上が詰まっていて容易に常勤の職には就けない。それで私は哲学の大学院に行くのをあきらめた。

 その後当時の国家一種試験の勉強を始め、上位合格したのだが、勉強をあきらめきれず法科大学院に入学した。指導教官には司法試験に受かれば研究者の道も開かれると言われた。だが司法試験と相性が悪く、結局私は法学者の道もあきらめることになる。

 そうこうしているうちに30代になってしまい、私はあわてて普通に就職した。年収は500万を超えているし、その後無事結婚もし、幸福な家庭生活を送っている。

 それで、結局大学院に行くのは正しい選択なのだろうか。まず、膨大なお金がかかる。私は今でも奨学金を返済している。そして、長くいすぎると婚期を逃すし、安定した職も期待できない。家庭的な幸福を犠牲にせざるを得ない。だが、勉強が好きな人にとっては大学院はまさに天国のような場所である。何しろ勉強し放題なのだから。私は勉強が大好きだったから大学院は楽しかった。

 上掲書にもあるように、院卒の人間は高度な専門的知識を有するのだから、普通の人と専門的な領域との橋渡し的な役割を担えばいいのだと思う。たとえば私は仕事で商標権を取得する必要があったが、知的財産法の知識があったため事業を成功裏に導くことができた。また、知り合いが警察のお世話になったときは、法律の相談に乗ってあげることで知り合いの心の負担をやわらげた。このように、私の法律の知識は無駄になっていない。人生の折々で人様の役に立てるのが専門的知識を有する者のメリットである。たとえ常勤の研究職に就けなくとも、そのような橋渡し的なところで力を発揮するのがいいのではないか。

蟹江憲史『SDGs』(中公新書)

 

SDGs(持続可能な開発目標) (中公新書)

SDGs(持続可能な開発目標) (中公新書)

  • 作者:蟹江 憲史
  • 発売日: 2020/08/20
  • メディア: 新書
 

  環境・経済・社会を統合するものとして、持続可能な社会を作り出すために2015年の国連総会で加盟国全部が同意した世界の未来像であるSDGs(sustainable development goals)。その詳細について書かれている。

 SDGsは17の以下の目標からなり、国際団体、政府、企業、自治体など多様なアクターがその実現に向けて努力している。

①貧困をなくそう、②飢餓をゼロに、③すべての人に健康と福祉を、④質の高い教育をみんなに、⑤ジェンダー平等を実現しよう、⑥安全な水とトイレを世界中に、⑦エネルギーをみんなにそしてクリーンに、⑧働きがいも経済成長も、⑨産業と技術革新の基盤を作ろう、⑩人や国の不平等をなくそう、⑪住み続けられる街づくりを、⑫つくる責任つかう責任、⑬気候変動に具体的な対策を、⑭海の豊かさを守ろう、⑮陸の豊かさも守ろう、⑯平和と公正をすべての人に、⑰パートナーシップで目標を達成しよう

 ついに世界も危機感を抱き始めたか、というのが正直な感想である。経済優先で環境汚染を繰り返す工業社会はもう終わりを告げた。それは持続可能でないからである。それだけでなく、社会的にも貧困や差別などをなくしていく目標が掲げられている。対立や軋轢などを生み出す構造を克服していく営みが始まっている。また平和や構成といった倫理的な課題もあり、およそSDGsは総合的な目標である。これには拘束力がないが、宣言されただけで十分な効果を持つ。実際日本でも様々なSDGs認証制度が出来上がっている。地球の未来は少し明るく見えてきた。

大沢真理『企業中心社会を超えて』(岩波現代文庫)

 

  「会社主義」というと、過剰な競争、異端的社員の排除、非正規社員への差別、長時間労働視野狭窄といったことが言われてきた。だが本書は、「会社主義」とは雇用労働と家事労働を貫く性別分業が基盤であることを主張している。

 というのも、女性が社会進出しているといってもしょせんパートタイマーの割合が多く、雇用の調整弁として使われており、日本の社会保障制度を考えても、男性稼ぎ手モデル、女性こそが家庭内でのケアを担うという役割分担がなされているからである。つまり、雇用労働において女性はそれほど中心的な労働力とみなされていないし、家事労働は女性に押し付けられて男性は企業内での労働に専念しているからだ。

 本書は、豊富なデータに裏付けられた会社主義分析の本であり、会社主義という概念にジェンダーからの視野を導入したことが画期的だった。少し古い本ではあるが、今なお男性中心の会社主義は根強く残っている。2021年現在、日本は少しずつ変わりつつあるが、それにしても変化が遅すぎると言わざるを得ない。

ポイントの時代

 最近ポイントにとりつかれている。きっかけはスマートフォンの機種変更時にエーユーペイの登録をしたことだ。そこからポンタカードの登録に至り、エーユーペイやポンタポイントで買い物をするとポンタポイントがたまるようになった。そうすると、コンビニはもっぱらローソンを選ぶことになる。セブンイレブンでもエーユーペイは使えるが、やはりローソンのほうがお得である。また、この間ココスで昼食を食べたらそこでもポンタポイントが溜まった。恐るべしポイント。キャッシュレス決済に伴うポイント還元は消費喚起の役割を担っているといえよう。

 だがポイントは単純に消費を喚起するだけのものではない。私は健民アプリというものを使っているが、これは歩いた歩数に応じてポイントが付与され、一定のポイントが溜まるとキャラクターをゲットすることができ、さらに一定のポイントが溜まると健民カードというものを作成できて飲食店などで優待の特典がある。私はこの健民アプリを入れてからますますウォーキングが楽しみになった。このポイントは健康促進の役割を担っている。

 また、近くのスーパーでは白色トレイを回収していて、一定数リサイクルするとそのスーパーで使えるポイントが溜まる仕組みになっている。このポイントはリサイクル促進の役割を担っているといえる。

 ポイントというとどうしても消費喚起のものばかり目立ってしまうが、ほかにも健康促進のためのポイントや地球環境維持のためのポイントも身近に存在する。このようにして、持続可能な社会に向けてポイント制度というものが巧みな誘因として機能していけば素敵である。実際私は健民アプリのポイントを溜めるためにより運動をし、スーパーのポイントを溜めるためにリサイクルしている。持続可能な社会に向けて、ポイント制度を上手に利用していってもらいたい。