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22条2項

民事訴訟法22条2項 移送を受けた裁判所は、更に事件を他の裁判所に移送することができない。

 この規定は、裁判所が事件を返送したりたらい回しにしたりすることを禁じる規定であるが、学説によれば移送決定確定後の新事由に基づく再移送は認められるし、東京地決昭61・1・14によれば、別個の事由による再移送が認められている。つまり、22条2項を破ることが許容されている。

 だが、手続法は、当事者や裁判所などは必ず遵守しなければならないのではないのだろうか。民法の任意法規とは異なるはずである。つまり、手続法は、民法の強行規定のように、公の秩序に関するものであり、当事者の合意などにより違反することは許されないのではないだろうか。

 契約の当事者が民法の任意法規を破っていい(民法91条)のは、任意法規に反する契約であってもそれほど公序を害するわけではなく、反面で当事者の私的自治に任せることにより人格の発展や社会経済の発展が期待されるからである。さらに、民法91条が明定されているとおり、任意法規はそもそも拘束力を持たないことを予定している。

 それに対して、民事訴訟法には民法91条に対応するような規定はない。民事訴訟法はそもそも破られることを予定していない。にもかかわらず、なぜ22条2項は違反しても良いのか。民法の任意法規を破っても良い根拠は、明文もさることながら、それを破ることによって達成される利益が大きいからであった。22条2項も、それを破ることによって、当事者の手続保障が満足される。訴訟を追行しやすい裁判所で訴訟ができるからである。

 民事訴訟法は、一方で裁判の公正迅速(2条)や訴訟経済などの公益的な目的を有するが、他方で当事者の手続保障や訴訟追行の便宜といった私益的な目的も有する。民事訴訟法のある規定に違反することは、それが公益的な目的を害せず、かつ私益的な目的に大きく利する場合には、法の趣旨には反しないのかもしれない。22条2項は主に当事者の利益を保護する規定であるから、当事者を利するような読み換えは規定の趣旨に合致するのだろう。

 つまり、民事訴訟法の規定にも、(1)それを破ると裁判秩序が乱れるから絶対破ってはいけない規定と、(2)それを破ってもそれほど秩序が乱れるわけではなくむしろ当事者の利益になる規定があり、22条2項は(2)の類型の規定なのかもしれない。