- 作者: 長尾龍一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/01/11
- メディア: 文庫
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法律学と哲学の両方とも知らない人は読むべきかもしれないが、両方知っている人にとっては退屈である。まず、そこで話されている内容が、一体法哲学のどの問題と結びついているのか明らかにされない個所が多い。余計な逸話を入れるから、ますます論点が分からなくなる。また、ようやく内実のある話にたどり着いたと思ったら、説明不十分で、その説明にはとても才気が感じられない。繰り返すが、初心者にはいいのかもしれないが、私には不満足だった。この本には、明晰さと緻密さと体系性と才気が欠けている。
ただし、この本には長所もあって、それは、(1)文学と法との接点を示していること、(2)法哲学をめぐる雑学的知識が得られること、である。文学テクストからの豊富な引用は、法の根源が文学の根源と共通の平面を有していることを示していて興味深い。人間の生きざまを前科学的に描くのが文学であるとするなら、その前科学的な次元にまで法が入り込んでいるという事実は常に意識しておくべきだ。文学からは様々な法的問題を抽出することができるのである。法律学の中に閉じこもっていると見えなくなってしまうような問題を、文学は提起しうる。また、雑学的知識はちょっとした話のネタになってよい。法律関係の友達と雑談するときにちょっとそういう知識を披露すると話の潤滑油にもなるだろう。そういう社交的な意味合いでこの本は良い。