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嘉戸一将『法の近代』(岩波新書)

 法とは何か。何が権力と暴力を分けるのか。そのテーマについて、様々な知見をもとにダイナミックに思考している本。結論としては、権力と暴力、政府と盗賊を区別するために、主権の場所は空虚でなければならなかった。主権は様々なフィクションによって埋められてきたが、結局は絶対無なのである。その空虚な場所を充てんする演出によって権力と暴力は区別されてきた。その仕組みだけがあればよいのであって、しくみ自体は何でもよい。必要なのは区別するという分別であり、理由を問う理性である。

 本書は、法の正統性をめぐり大きな思考をダイナミックに展開している重厚な書である。新書としては難解な部類に入ると思う。だが、法の仕組みについて様々な知見が手に入るし、そこで出てくる最終的な結論も面白い。法について考える際、とても参考になる本であり、ここを前提としてさらなる議論が深まっていくのであろう。読んでよかったと思える本だった。