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絲屋寿雄『管野すが』(岩波新書)

 大逆事件にかかわり死刑となった婦人革命家の評伝。言論の自由も結社の自由もなく、普通選挙もなく、専制的な天皇制の日本で、いまだ労働組合すら組織されていない状況で、日露戦争に反対したり、女性の権利を訴えたり様々な先進的な言論活動を行った管野すがだが、少数の社会主義者の運動は変革の思想を深めるほど天皇制権力との決死的対立にいたった。彼女はある意味テロリストであるが、当時は社会を変革するにはテロくらいしか手段がなかった。

 天皇が人間であることを証明するために爆弾を投げつけようとした大逆事件であるが、このようなテロリズムを生み出したのは、そのような社会的な土壌があったからだ。現代であれば言論の自由が保障されているから、進歩的思想をどんどん世に発信していき、社会の意識を変えていくことが可能であるが、言論の自由も保障されず、政府に都合の悪いものは発禁処分となる状況においては、思想の先進性ゆえに暴力に結び付かざるを得ないジレンマがあった。ある意味言論や結社の自由は、社会を弾力化し、政府にとっても安全保障となるのではないだろうか。