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中井遼『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書)

 ナショナリズムと政治的な左右とのかかわりについて論じた本。ナショナリズムとは、文化を共有する人々を身分や階級を超えて一つの集まりとして結び付けたいという心の動き、そしてそれに基づく政治的・社会的運動である。それは愛国心や排外意識と結びつくが、正の相関を持つか負の相関を持つかについては国によってグラデーションがあり、多様性がある。政治的な左右との関係で、ナショナリズムは社会文化的な保守主義権威主義と結びつくとされていたが、実際はこの結びつきも多様で、国によってグラデーションがある。

 本書は、国際的な価値観の統計などをベースに、人々の価値観を定量的に分析し、属性間の相関関係をデータに基づいて分析したうえで、ナショナリズムの在り方や、ナショナリズムと政治的な左右の結びつき方には国ごとの多様性があり、正の相関を持つ国もあれば負の相関を持つ国もあり、右だからこうだとかナショナリズムは悪いとかそんな単純な話はできないと主張している。確かに政治意識をめぐる問題は論理的な関係ではなく、むしろその国の置かれた政治的・歴史的状況によって変わるわけであり、本書の分析は見事であった。