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育児は人権尊重に資する

 経済学では古典的に、投下された労働に応じて価値が生まれるとされていた。もちろんこれは商品の価値のことなので、育児について直接には当てはまらないかもしれない。だが、育児を経験した人なら、乳幼児に対して大量の育児労働を投下するため、そこにかけがえのない価値が生まれていることを感じるはずだ。これだけ手をかけて育てた子供には計り知れない価値がある。育児を経験した人ならそういう実感を持っているはずだ。

 人間の尊厳については、その根拠について諸説あるだろう。だがその一つの根拠として、人間は誰もが親や周囲の人や行政等の大量のケア労働を受けて育ったという、その投下された労働の重みが挙げられると思う。誰もが誰かにとって大切な人であり、誰もが誰かによって育て上げられた、それゆえ誰もが計り知れない価値を持っている。だからこそ誰に対しても人権を認めて、その人権を尊重しなければならない。

 人間は誰もが大量のケア労働を投下されて育った計り知れない価値を持つ存在である。それゆえ人間には人権があり、それを尊重しなければならない。育児を経験した人なら、自分の子供だけに価値を認めるのではなく、同じく大切に育てられた他人の子供にも価値を認めるはずである。「あの子も親に大事に育てられたのよ」、そういう想像力によって、すべての子供に価値が認められる。人間は誰もが誰かの子供であるから、人間はみな計り知れない価値がある。だからそれを尊重しましょう、そういうことである。

 だから、育児を経験するということは、憲法の基本原則である人権尊重の理念をある一側面からよく実感することになるので、育児を経験することは大事である。昨今、男性の育児参加が叫ばれているが、それは憲法の基本原則を一側面から実感するという意味でも重要であろう。