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法の守備範囲

 法的思考には限界があるが、その限界を確定しなければならないはず。それこそが批判Kritikの役割だ。たとえば、私がいま赤いものを見ているとしよう。この「赤さ」は、「赤さを感じる権利」と同じではない。なぜならば、「赤さを感じる権利」は少しも赤くないからだ。「赤さ」は権利でも義務でもないとすると、権利・義務を生む法律要件事実にはならないか。だが、「赤さ」という個人的な感覚が要件事実になっているような法律はおそらく存在しないだろう。では、証拠としては使えないか。交通事故の損害賠償請求事件で、信号の色が赤だったことの証拠として、「赤さ」は使えないだろうか。確かに私は証人として、信号の「赤さ」について語るだろう。だが、そのような語られた赤さはもはや客観化され言語化された赤さであり、感覚的なこの「赤さ」とは異なっている。(1)すべてのものは権利・義務に還元できるか、(2)すべてのものは法的に重要な事実となるか、(3)すべてのものは証拠として機能するか。これらの問いに答えるのが法システム批判であろうが、そのKritikをする前に、まず、権利・義務とは何か、事実とは何か、法とは何か、証拠とは何か、それが分かっていなければいけない。思ったより大変な仕事だ。