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今村仁司『ベンヤミン「歴史哲学テーゼ」精読』(岩波現代文庫)

ベンヤミン「歴史哲学テーゼ」精読 (岩波現代文庫)

ベンヤミン「歴史哲学テーゼ」精読 (岩波現代文庫)

 ベンヤミンの思考方法として、「二分法の無限シリーズ」がある。これは、現象を積極と消極の二つに分け、そして消極の方を重視し、消極の方からさらに積極的なものを見つけ出し、消極をまた積極と消極に分け、これが無限に続いていくのである。

 積極的なものの集合は概念的に把握されたイデア的なものであり、積極的なものたちの集合は消極的なものたちを背後に輝く「星座」である。星座とは、それ自体として輝くことはないが、星たちを輝かせるイデア的な受容器である。そして、個別の星たちは有機的で構造化されたモナドであり、それらによって構成される星座もモナドである。星座は静止しているかのようであるが、そこには相互の緊張と対峙があり、常に動的な危機に瀕している。

 現象は優越的に過去的であり、事象は廃墟的である。分析のシリーズは、決して輝くことのない廃墟から、輝く星たちを取り出して見せる思考方法である。

 歴史哲学は、自然と人間、人間と人間の対立を矛盾なく決着させ、それらの対立から事象を救済・解放するのが役目である。人間は、「今-こそ-その-とき」その瞬間に顔を現す過去をとらえなくてはならない。そのことによって、過去の歪曲と戦い、廃墟の破片を寄せ集め組み立て、歴史を救済する「歴史の天使」、メシア的存在となるのである。過去の抑圧されたもの、敗者をそのようにして救済するのである。

 人間は目的志向の存在であるから、どうしても未来を優位に据えがちである。だが、歴史において未来ではなく過去を重視するということ、豊饒であるはずの過去を大事にするということ、リサイクルするということ、そこに、ベンヤミンのエコロジーを感じる。進歩や発展だけが歴史なのではなく、その前提として過去を救済するということ。