広田は外相や首相として、戦前から欧米との協調、中国との提携を目指していた。だが、二・二六事件以降圧力を強める軍部に対抗しきれず、ずるずると第二次世界大戦に追従してしまう。戦争に対して責任を感じていた広田は、戦後の東京裁判でも自らの責任を認めることが多く、僅差でA級戦犯となり処刑された。
本書は広田弘毅を主人公とする一大歴史絵巻であり、中でも最後の方は広田の境遇に同情を禁じ得ない。広田の生き方の提示する問題とは、消極的であっても関与したものには責任を負わされるという不条理、自ら積極的に罪を認めたものの方が重く処罰されるという不条理、この二点に尽きると思う。広田の問題は我々自身の問題でもある。