民主主義は西洋に起源を持つ、というのが定説のように唱えられてきた。特に古代ギリシアのアテネに由来するというのが大方の見解であった。ところがこの本は、西洋文化が民主主義を独占することを否定する。多様な人たちが集まり、強制の構造が力を弱めるような場所ではどこでも、人々は共同かつ対等の意思決定の規則を実践の過程で新たに発見する。民主主義の起源はこのような即興的な場面であり、民主主義はアナーキーと類似する。
本書は民主主義の起源を人類学的知見に基づいて事実的に再考している。その際、民主主義を決して堅固なものではなくむしろアナーキーに近い秩序の弱いものとして扱っている。民主主義というと近代が生み出した堅牢な理念のように思われているが、まずその理念を解体し、そのうえでその起源について再考を促している。非常に示唆に富み刺激的で読んでいてとても楽しかった。この本は言わば議論の出発点であり、ここから新たに民主主義について議論が活発化していくのであろう。そのような始まりをなす本書はかなり重要な議論を提示しているように思われる。