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考慮要素

 裁判例において、事実がある要件に該当するかの判断のレベルで、様々な考慮要素を挙げて、それらを総合考量して結論を出すというやり方がよく用いられる。例えば、任意捜査の適法性に関しては、当該捜査手段を用いることの必要性・緊急性・相当性を考慮し、具体的事実をそれらの基準に沿って評価した上で、任意捜査が適法かどうか判断する。

 この考慮要素というのが厄介で、受験生としては、とにかくこれ全部覚えなければならないのではないか、などという不安に駆られる。だが、考慮要素を導くためには一定の思考が働いているわけで、その思考はある程度一般化することができるような気もする。

 まず、問題となっている論点で、どんな要素が登場してくるか考える。例えば任意捜査だったら、捜査官、被疑者。次に、それらの要素がどんな関係にあるか考える。例えば任意捜査だったら、罪を犯したと疑われている被疑者の利益を捜査官が公益のために侵害する。そして、その論点で何を判断しようとしているか確認する。例えば任意捜査だったら、その適法性である。

 それから、判断する対象(任意捜査の適法性)の観点から、それらの関係におかれた要素のもつ属性のうちで何が問題となるかを検討すればよい。捜査官は捜査をするのであるから、その捜査の態様、捜査の方法、抱いている嫌疑の程度、捜査の必要性などが考慮されるだろう。被疑者は利益を侵害されるのだから、侵害される利益の内容・程度、被疑者の態度などが考慮されるだろう。これらの考慮要素がどうであるかによって適法かどうかが左右される、そういう考慮要素を、登場する人物なり要素なりの属性から選び取るのである。

 だから、上に挙げた考慮要素からも分かるとおり、任意捜査の適法性の判断の際に考慮すべき事情は、「必要性・緊急性・相当性」以外でも充分妥当でありうる。結局考慮すべき理想的な具体的事情の組み合わせは共通であり、その事情をどうくくるかによって、私のような散漫な羅列になるか、「必要性・緊急性・相当性」というスマートなものになるかの違いでしかない。考慮要素には、「これでなければならない」という絶対的な組み合わせは存在しないと思う。