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自由意思

 平野龍一は『刑法の基礎』で次のように書いている。

刑罰も、人間のもつ法則性を利用して、将来行為者および一般人が同じような事態のもとで犯罪を行なわないように新たな『条件づけ』を行おうとするものにほかならない

 一般に刑法的非難の根拠は、行為者に自由意思があることを前提としている。やらないこともできたのにあえてやった、だからこそ責任が発生する。だが、一方で、刑法的非難は、行為者の自由意思がある程度制限されていることも前提としているのである。行為者の意思決定の場面で、刑罰の威嚇力によって罪を犯さないように働きかけること。つまり、刑罰の存在によって人間が罪を犯さないように決定されることを前提としている。だから、刑法は、責任の発生の根拠として自由意思の存在を要請し、一般予防の実効性を証明するために自由意思の制限を要請する。純粋な決定論も、純粋な非決定論も採れないわけである。