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渡辺和子『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎)

 

置かれた場所で咲きなさい

置かれた場所で咲きなさい

  • 作者:渡辺 和子
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2012/04/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

  渡世というものはまことに難しい。世の中の人間関係は複雑だし、その複雑な人間関係にどう対処するかについて明確な答えがない。時には他人からひどい目にあわされるかもしれないし、自分が何らかの過ちで他人に害を与えてしまうかもしれない。そういう時にどのような気の持ちようをしているのが正しいのか。

 渡辺和子『置かれた場所で咲きなさい』は、許すことと前向きになることを基本的な処世術として挙げている。自分がどのような境遇に置かれても、それを受け入れてそこで前向きに明るく咲いていくということ。自分がどんなひどい目にあわされても相手を許し、その苦難から何らかの学びを得て希望へとつなげていくこと。この本はそういうことを説いている。

 だがもちろん、それだけで渡世の悩みが解決するわけではない。なぜなら、世の中は水に流せることばかりではないからだ。もちろん、誰だって些細なことで騒ぎたくないしおおごとにはしたくない。それでも自分が被ったものがあまりに程度がひどいものであるときは、何らかの相談なり対話なりが必要である。それを許してただ微笑んでいるだけでは自分の心が病んでしまうような事態、自分が所属組織を抜けざるを得なくなる事態、同じような被害者がそれ以降も増えてしまう事態、そういう事態に直面したときには誰かに相談し、または相手と真摯な対話を行う必要があるだろう。

 確かに、基本的には渡辺の述べるようになるべく多くのことを許して、黙って微笑んでいつでもポジティブに振舞っているのが正しい処世術だ。そうすれば自分の悩みは減るし、周りの評価も上がる。だが、例えば犯罪行為やひどいハラスメントの被害を受けて心を病みそうになった時までそれを貫くことはかえって自分を損なうことになる。緊急事態には緊急事態の身の処し方がある。渡辺にはぜひともそこまで踏み込んでほしかった。