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ダニエル・ペナック『学校の悲しみ』(みすず書房)

 フランスの作家ダニエル・ペナックが、自らの少年時代の劣等生としての記憶をつづったエッセイである。とにかく暗記ができない、数学や文法ができない。著者は劣等生としての勉強ができない苦悩を生々しく描く。教師になり作家として成功した今でも、認知症の母親は著者の勉強の心配をするし、著者には劣等生であったことがトラウマとなっており、様々なフラッシュバックに襲われる。

 教育の文脈で劣等生の問題を扱ったものを初めて読んだ。だが、この劣等生の問題こそが学校教育が始まって以来脈々と続く社会的問題なのだと思う。皆を同じ尺度で図って、君はできる君はできないとレッテルを貼っていくということ。これは社会的スティグマであり同時に心理的外傷でもある。このような学校教育の在り方は改善されていくべきであろう。劣等生の問題を解決しないことには、学校というものがトラウマ製造機としての悪弊を免れることはできない。教育の柔軟な対応が求められる。