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事務職とは何か

 私はもう就職してから10年目になる。私は事務職に就いているが、では事務職とはいったいどういう仕事であろうか。一言で言うなら、事務職は黒子である。縁の下の力持ちである。表舞台で活躍する人を下から支える仕事である。決定する人、結論を下す人はほかにいて、決定したり結論を下すための原案を作成したり、そこに至るまでに必要な手続きを行うのが事務職の仕事である。事務職は主人公ではない。脇役ですらないのかもしれない。事務職は舞台係や照明係に過ぎないのである。

 かつて私は施設の名前を決める事務をしたことがある。施設の名前の決め方についてはいろいろやり方があるが、私たちは公募によって一般人から広く募集し、それを有識者の委員会で検討し、そこで上がった有力候補について組織の長が決定するという手続きをとった。この手続をとること自体について、私にはそれほど裁量がなかった。管理職の意思決定により、ほぼ手続きは決定され、私は実際にその手続きの事務を行った。

 まず、一般から募集するためには周知が必要である。私はウェブ媒体や新聞雑誌といった媒体を用いて公募する事務を行った。例えばポスターのデザインを決めて発注したり、広告の案文を決めてそれを掲載依頼したり。そしてたくさん集まった名前の候補について、一覧を作り整理して、委員会にあげるべきものを選定した。そして委員会の開催の事務を行い、会場準備や会議録起こしなどを行った。名前が決まると、名前を商標登録するという事務もあったため、弁理士に依頼し商標登録もしてもらった。

 このように、華々しく活躍するのは、名前を考案する一般人であり、名前を審査する委員であり、名前を決定する組織の長である。私はそれに必要な手続きについて、地味な事務作業を淡々と行ったのである。もちろん私に細かな裁量はある。だが、実際の仕事の進め方の大枠は上司によって決定され、私はそれを実現するために創意工夫しその仕事を実現した。

 事務職は決して主役ではない。だが、主役以上に労力を割き、主役以上に苦労を重ね、主役以上に工夫する。だから、あの仕事はあの職員の功績であると言われたりするのである。それは、職員は決定権はないが必要な膨大な事務を行うからである。こうなると果たしてどちらが主役かわからなくなるが、決定するのが主役、手続きを行うのが黒子だとすると、事務職は黒子である。だが、黒子でありながら多大な貢献をするため、事務職はある意味主役でもあるのだ。