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堀部政男『アクセス権とは何か』(岩波新書)

 アクセス権とは、1967年にアメリカのバロンが提唱した権利であり、マスメディアが言論空間を支配する現代社会に、情報の受け手である市民もマスメディアで意見表明できる権利である。そしてそれは表現の自由の一環である。アクセス権は、マスメディアの労働運動や市民運動などによって要求され、情報の送り手の社会的権力に対し情報の受け手の側から牽制を加え、議論の公正さを担保しようとしている。

 本書は1978年に刊行された書物であり、当時のアクセス権議論の盛り上がりを伝えている。個人が自由にネットで意見表明できるようになってきた現代、アクセス権の意義は従来ほどの重要性を持たないかもしれない。また、マスメディア側でも、例えば新聞の投書欄であるとか、テレビでも読者から寄せられた声を取り上げたり、ソフトな形で市民の声がマスメディアでも取り上げられるようになっている。アクセス権は情報の送り手と受け手が階層的に分離していた当時ほどは現代では問題にならないのかもしれない。