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中森弘樹『「死にたい」とつぶやく』(慶應義塾大学出版会)

 座間9人殺害事件を思考の端緒に、親密圏における「死にたい」という発言の意味を考察している。家族や親しい友人といった親密圏においては、基本前提が「生きたい」という欲求であり、その親密圏において「死にたい」と発言することは、親密圏に重大な亀裂を発生させる。親は「死にたい」と言う子どもを叱責するかもしれないし、あるいは逆に過度の心配を抱くかもしれない。その点、Twitterなどの親密圏の外側では、かえって「死にたい」と言いやすく、同じ気持ちを持っている人たちとつながりやすい。それが治療に結び付くこともある。だが、座間の事件の犯人のように、「死にたい」という女性を巧妙に連れ出し殺害するケースもある。このように、親密圏の外側は諸刃の剣なのである。

 「死にたい」という言葉に注目した画期的な論考である。確かにTwitter上にあふれかえっている「死にたい」ではあるが、リアルな生活ではあまりお目にかからない。この独特の破壊力を持った特殊な言葉が、親密圏内部ではどうふるまって、親密圏外部ではどうふるまうか、そういうことを考察している。「死にたい」人同士のシェアハウスの実態などについても分析していて面白い。とにかく、本書を読みたい人はたくさんいるのではないだろうか。