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危害原則

 大庭健「「責任」ってなに?」によると、危害原則とは、「他人に危害を加えない限り何をしようと自由であり、他人に利益をもたらす責任はない」という原則である。危害原則によれば、責任はもっぱら他人に危害を加えたことから生じる。危害原則の背後には、不作為は作為よりもコストがかからないのだから(何もしないのは楽だが何かをするのは一苦労である)、何らかの利益を実現するに当たってはまずは不作為を義務付けるべきだ、という考慮が働いている。

 刑法は国民に不作為を義務付けて公共の安全という利益を実現している。これは、不作為を義務付ける方が国民の負担が小さいからである。以前ここで書いた、国民に作為を義務付けるような「逆刑法」みたいなものは、たとえ利益を実現できても国民の負担が大きいので現実には制定されない。最小限のコストで最大限の利益が上がるようにする効率性の発想がそこには働いている。刑法が存在し逆刑法が存在しないのは危害原則の帰結といえる。