社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

「時計じかけのオレンジ」

 スタンリー・キューブリック監督の「時計じかけのオレンジ」という映画がある。この映画では、犯罪を犯した主人公が、暴力的なシーンが連続する映像を強制的に見せられることで、暴力に対する生理的な嫌悪を抱くように矯正され、早々と社会復帰する。要するに、犯罪対策として、「刑罰による制裁」に代替するものとして、「犯罪者の完全な更生」が意図されるのである。

 だが、犯罪者を二度と罪を犯せない心理状態にして特に刑罰も課さないで釈放することは犯罪対策として妥当か。この方法ではもちろん特別予防は徹底されている。だが、ほかにさまざまな問題があると思われる。

 まず、(1)罪を犯すと二度と罪を犯せない心理状態にさせられることに、罪を犯そうとする人の行為を抑止するだけの力があるかどうかが疑問である。つまり、一般予防としての機能が果たせていないかもしれない。

 次に、(2)多くの犯罪が再犯によってなされるのならこの対策は社会全体の犯罪数を減らすが、多くの犯罪はむしろ一人の人間の人生では一回切りだったりするのではないか。この場合、この対策では社会全体の犯罪を減らせない。

 さらに、(3)この対策では被害者の復讐感情を満足させられるか疑問である。加害者に十分な苦しみを与えられていないとも思われる。

 その上、(4)人間には罪を犯す自由があるのかもしれず、この対策ではその自由を剥奪するという意味で人間の尊厳を害する可能性がある。