社会科学読書ブログ

社会科学関係の書籍を紹介

黙示的立法

 司法権の作用とは、一般的には、具体的事件について法を適用し宣言することだと言われている。だが、法律の文言というものは一定のあいまいさがあり、解釈の余地を残すものである。よって、法を適用する場合にも、その前提として法を解釈しなければならない。法の内容を明確に規定しなければ法を適用できないのである。よって、司法権の作用には当然法の解釈も含まれると思われる。

 ところで、この法の解釈の作業というものは、法の内容を、法律の文言の範囲内でさらに規定するものであり、法の内容を詳細化し規定するという意味で、一種の立法作用にも似ている。司法権には、一種の立法権も含まれているのである。

 ところが、この法の解釈の作業で欠かせないのが、法を適用する当時の社会観念である。例えば、刑法だったら、同じ条文であっても、保護法益をどうとらえるかによって可罰的であるかどうかが具体的状況に応じて変わってくるのである。例えば住居侵入罪の保護法益についての考えは、時代とともに、社会観念の変化とともに、旧住居権説、平穏説、新住居権説、と変わっていった。これは結局、刑法130条の文言の範囲で、その文言の許容する程度の解釈、つまり黙示的立法を、社会観念、つきつめれば国民全般の意識が行ったということである。

 司法権も、法の解釈という形式で、立法を実質的に行っている。ところでこの法の解釈には国民の意識、社会観念が強く反映されている。立法というと、国民が議員を選挙し、国会が行うという明示的なものもある。だが、法の解釈の内容を決定するという司法の次元においても、社会観念の反映というソフトな仕方で、国民が黙示的に実質的な立法を行っているのである。